01 — きっかけ 通帳の数字を見直したとき

確定申告を終えたあと、銀行口座の年間利息を見直した。
金額は大きくない。
通帳にはすでに税引後の数字が記載されている。
利息が発生した時点で、20.315%が差し引かれているからだ。

その税金は、確定申告では精算されない。
所得が赤字であっても、医療費控除があっても、事情は変わらない。
源泉徴収で課税関係は終了している、という扱いになる。

銀行利息 源泉徴収税率
20.315%
うち 所得税+復興特別所得税
15.315%
うち 地方税(住民税)
5%

02 — 対比 制度が「記憶する」損と、記憶しない損

一方で、上場株式の譲渡損失には仕組みがある。
同一年の利益と相殺でき、相殺しきれなければ三年間繰り越すことができる。
毎年確定申告を行えば、その損失は記録され、将来の利益から差し引かれる。
制度は損失を「覚えている」。

市場参加者 / 投資家
上場株式・投資信託の
譲渡損失は、同年の利益と相殺できる。
相殺しきれなければ最長3年繰越
損失は申告書第四表に明示され、
帳簿に残り、翌年に引き継がれる。

生活者 / 預金者
普通預金・定期預金の利息から
差し引かれた税は、どこにも残らない。
還付の欄もなければ、繰越の欄もない。
そもそも「損」という概念で
扱われていない。

儲ける可能性のある市場参加者には、損失の管理制度が用意されている。
日常の資金を預けるだけの人には、管理の制度は用意されていない。

銀行利息の「例外」について

  • 国債・社債
  • 外国利息
  • 総合課税を“選択”した場合

国債・社債の利子は原則として同じく源泉徴収(20.315%)です。
ただし、特定公社債の利子は確定申告で申告分離課税を選択でき、上場株式等の損失と損益通算できるという点で「普通預金より選択肢が広い」。
なので株式損失との通算に使える可能性がある。

外国利息も同様で、条件次第で総合課税を選べる場合があるのですが、前提条件が多い。

重要なのは、普通預金・定期預金の利子は、総合課税を「選べない」と法律で決まっているということです(租税特別措置法)。

FX・暗号資産について

FXは「雑所得(申告分離)」で、同じ雑所得内(例:FX同士)なら通算できます。
株式との相殺不可。

暗号資産は「雑所得(総合課税)」で、FXとも株式とも相殺不可です。
さらに損失の繰越もできません。
FXと暗号資産をひとまとめに書くと正確さが落ちます。

種類 損失繰越 株式と通算 備考
上場株式・投信 ◯ 3年 申告分離
特定公社債の利子 条件次第 条件次第 申告で通算可能な場合あり
普通・定期預金利子 総合課税選択も不可
FX ◯ 3年 雑所得・申告分離
暗号資産 雑所得・総合課税、繰越なし

総合課税を選ぶと何が起きるか

外国利息は総合課税を選択すると、他の所得(給与・事業など)と合算されて累進税率が適用されます。
一概に「得」とは言えず、所得が多い人ほど不利になる仕組みです。

課税所得 所得税率 源泉徴収の税率と比較
195万円以下 5% (15%より低い)
195〜330万円 10%
330〜695万円 20% ほぼ同じ〜やや損
695〜900万円 23%
900万円超 33〜45% 大きく損

得になるのは限られたケース
所得が低く、総合課税にすることで税率が源泉徴収(15.315%)を下回る場合です。
具体的には課税所得がおおむね330万円以下の人が候補になります。

ただし住民税(10%)も合算されるため、トータルで計算する必要があります。
また手続きの手間も増えます。

結論
給与所得がある一般的なサラリーマンの多くは、総合課税を選んでも得にならないか、むしろ損になります。
「選べる=得」ではなく、所得水準を確認してから判断する必要があります。

03 — 構造 なぜそう設計されているのか

銀行利息の税は、どれほど小さくても徴収される。
金額の下限はありません。

ただし、錯覚が起きる理由があります
通帳は「税引後」表示

  • 利息 125円
  • 税金 約25円
  • 通帳には 100円だけ
  • 年に 2回

→ 「あれ?税金引かれてない?」と感じやすい

個々人の金額は小さい。
しかし全国規模で見れば、相当な額になるはずだ。
それでも、その税は還付の対象にならない。
そもそも「精算」という概念の外側に置かれている。

制度上の説明は明確である。
簡便であること、徴税コストを下げること、税収を安定させること。
そのために申告不要とし、源泉徴収で完結させる。
法律に基づいている以上、違法ではない。

簡便性
申告不要。
源泉徴収で完結。

コスト
徴税コストを最小化。
国民側の手続き負担もゼロ。

安定性
国家側から見ると、申告も請求も起きない安定した税収源。

還付
所得が赤字でも、医療費控除があっても、返還請求は原則できない。

繰越
普通預金・定期預金の利息税に繰越控除の仕組みはない。

04 — 分析 合法と正当は、同じではない

ただ、記録の仕方に差がある。
株式の損失は、申告書第四表に明示される。
金額が転記され、翌年以降に引き継がれる。
帳簿に残る。

普通預金の利息から差し引かれた税は、どこにも残らない。
還付の欄もなければ、繰越の欄もない。
そもそも「損」という概念で扱われていない。
生活者の小さな減少は、制度上は出来事にならない。

国家は、儲けた人の損は覚えている。

市井の人の微損は、最初から数えていない。

それは意図というより設計であり、悪意というより優先順位の問題である。
税制は理念よりも実務で組まれる。
把握しやすいものから把握し、動く金額の大きいところから調整する。

小さな金額は、簡素化のために丸められる。
その丸められた先にいるのが、多数の生活者である。

この歪みは構造的なものだ。
株で大きく儲けた人は損失を繰り越して節税できる。
銀行預金でコツコツ資産を守る人は、確実に税金を取られる。
低所得・赤字でも利子税は戻らない。
リスクを取らない人ほど、救済が薄い。

05 — 結び 書かれない数字と、残らない違和感

確定申告を終えたあと、数字は静かに確定する。
帳票は三枚、あるいは五枚で終わる。
そこには書かれない金額がある。
それは計算の外に置かれた金額であり、制度の外に置かれた感覚である。

記録として残るのは、申告書に印字された数字だけだ。
残らないものは、各人の違和感だけである。

しかしその違和感は、感情論ではない。
制度を精読したとき初めて言語化できる、構造への問いである。
税制は公平ではなく「管理しやすさ」重視で組まれている。
そのことを知ること自体が、一つの力になる。

「返らない税金はおかしい」という感覚と、「損したときに補償はあるのか」という問い。
この二つは、同じ根っこだ。
制度を知ることは、怒りや疑問を思考の出発点に変えることである。

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