自己効力感の向上を目指した看護計画では、「患者自身ができる」という感覚を段階的に育てることが重要です。
ここでは、リハビリ・生活習慣改善・セルフケアの3場面における具体的な看護計画例を示します。
例文1:脳卒中後リハビリテーション患者
【看護診断】
活動耐性低下:右片麻痺による日常生活動作の制限に関連した自己効力感の低下
【長期目標】
患者が「自分でできる」という感覚を持ちながら、ADL(Activities of Daily Living, 日常生活動作)の自立度を段階的に向上させる(4週間)
【短期目標】
1週目:ベッド上での体位変換を自己で実施できる
2週目:介助下で車椅子への移乗ができる
3週目:見守り下で車椅子への移乗ができる
4週目:トイレまでの移動を自己で判断し実施できる
【看護計画】
OP(観察計画:Observation Plan)
- リハビリへの参加状況と表情・言動
- 「できない」「無理」などの否定的発言の頻度
- 小さな達成場面での反応(笑顔、前向きな発言)
- 家族や同室患者との関わり方
- 睡眠状況、食事摂取量(意欲の指標として)
TP(ケア計画:Treatment Plan)治療計画/援助計画
- 達成可能な課題設定:現在の機能レベルより少し上の目標を患者と共に設定する
- 成功体験の可視化:「昨日より5cm多く手が上がりましたね」など、具体的な変化を言語化する
- 過程の承認:結果だけでなく「頑張って続けていますね」と努力を認める言葉かけ
- 選択肢の提示:「先にトイレに行きますか?それとも朝食が先がいいですか?」と自己決定を促す
- モデリングの活用:回復段階が近い患者との交流機会を設ける(院内患者会など)
- 否定的感情への共感:「思うように動かないと悔しいですよね」と感情を受け止める
EP(教育計画:Education Plan)
- 回復には時間がかかること、段階的に進むことを説明する
- 「できないこと」より「できるようになったこと」に目を向ける視点を伝える
- 家族に対し、過度な励ましや代行よりも「過程の承認」の重要性を説明する
- 退院後の生活イメージを一緒に描き、具体的な目標を共有する
【評価】
- 否定的発言が減少し、「やってみます」という言葉が聞かれるようになったか
- リハビリへの主体的な参加が見られるか
- 小さな達成を自分で認識し、表情が明るくなったか
- ADL自立度が段階的に向上しているか
例文2:糖尿病患者の生活習慣改善支援
【看護診断】
非効果的健康管理:血糖コントロール不良に関連した自己管理行動への自己効力感の低下
【長期目標】
患者が食事・運動・服薬を自己管理し、HbA1cが7.0%以下に改善する(3ヶ月)
- 合併症予防の目標値
- 長期的な血糖コントロールが良好になり、糖尿病の合併症(網膜症、腎症、神経障害など)のリスクが低減した状態
- 個人の状態(年齢、他の病気)に応じて6.0%未満を目指したり、低血糖に配慮して8.0%未満に設定する場合もあります
過去1~2ヶ月の血糖値を反映する指標で、赤血球中のヘモグロビン(血色素)とブドウ糖が結合した割合を示します。
【短期目標】
1ヶ月目:食事記録を週5日以上つけられる
2ヶ月目:週3回以上の運動習慣を継続できる
3ヶ月目:血糖値の変動パターンを自分で説明できる
【看護計画】
OP(観察計画)
- 食事記録の継続状況と内容
- 血糖自己測定の実施状況と結果の理解度
- 「続けられない」「面倒」などの発言の有無
- 家族のサポート状況と患者の受け止め方
- 外来受診時の表情、意欲の変化
TP(ケア計画)
- スモールステップの設定:「毎食」ではなく「まず夕食だけ」記録から始めるなど、達成可能な小目標を設定
- 成功の強化:「今週は5日も記録できましたね」と数値で示し、達成感を共有する
- 失敗の再定義:「1日できなかった」を責めず、「6日できた」と肯定的に捉え直す
- 行動と結果の可視化:食事内容と血糖値の関係をグラフで示し、「あなたの工夫が数値に表れています」と伝える
- モデリング:同じ疾患で良好なコントロールを維持している患者の体験談を紹介(患者会など)
- 家族教育:「できていないこと」の指摘より「できていること」の承認を依頼
EP(教育計画)
- 完璧を目指さず「できる範囲で続ける」ことの重要性を説明
- 血糖コントロールは「ゼロか100か」ではなく、小さな改善の積み重ねであることを伝える
- 自己測定結果の見方、変動要因の理解を段階的に支援
- 「自分で選択している」感覚を持てるよう、複数の選択肢(食事・運動方法)を提示
【評価】
- 食事記録の継続率が向上したか
- 「やってみよう」という前向きな発言が増えたか
- HbA1cが改善傾向にあるか
- 患者が自分の工夫や成果を言語化できるようになったか
例文3:手術後の早期離床支援
【看護診断】
活動耐性低下:術後疼痛と創部不安に関連した離床への自己効力感の低下
【長期目標】
患者が術後合併症予防のための早期離床の重要性を理解し、主体的に離床行動を実践できる(術後5日)
【短期目標】
術後1日目:ベッド上で座位を30分保持できる
術後2日目:ベッドサイドに立位がとれる
術後3日目:病室内を歩行できる
術後4-5日目:自己判断で離床し、トイレ歩行ができる
【看護計画】
OP(観察計画)
- 疼痛の程度(NRS)と離床への影響
Numerical Rating Scale(数値評価尺度)
0から10までの11段階、シンプルで分かりやすい - 「痛いから無理」「怖い」などの不安・回避発言
- 離床時の表情、創部保護行動
- バイタルサイン(体温・血圧・脈拍・呼吸などの生命徴候)、創部状態、合併症の徴候
- 離床後の達成感や自信に関する発言
TP(ケア計画)
- 段階的な目標設定:「いきなり歩く」ではなく「まず座る」から始める段階を明示
- 疼痛管理の保証:「痛みが強ければ我慢せず言ってください。鎮痛剤を使いながら進めましょう」と安全感を提供
- 小さな達成の言語化:「昨日より5分長く座れましたね」「立つ時の顔色が良くなりました」と変化を伝える
- 創部への不安軽減:「傷はしっかり縫合されているので、動いても開きません」と科学的根拠を説明
- モデリング:「同じ手術を受けた方も、最初は不安でしたが今は元気に歩いています」と情報提供
- 自己決定の尊重:「今から離床しますか?それとも鎮痛剤が効いてからにしますか?」と選択を促す
EP(教育計画)
- 早期離床が合併症予防(肺炎・血栓)につながることを説明
- 「痛みはあっても、動くことで回復が早まる」というメカニズムを伝える
- 離床時の安全な動き方(創部の保護方法)を具体的に指導
- 家族に対し、過保護にせず患者の「できる」を見守る姿勢の重要性を説明
【評価】
- 計画通りの離床が達成できているか
- 「やってみます」「できました」という肯定的発言が増えたか
- 疼痛コントロールが適切にできているか
- 術後合併症の徴候がないか
- 患者が自己判断で離床行動をとれるようになったか
看護計画作成のポイント
1. 観察計画(OP)では
- 発言内容(否定的/肯定的)を必ず含める
- 非言語的サイン(表情、参加姿勢)も観察項目に
2. ケア計画(TP)では
- 成功体験の設計:達成可能な小目標設定
- 可視化:変化を数値・言葉で具体的に示す
- 過程の承認:結果だけでなく努力を認める
- モデリング:近い立場の回復例を示す
- 選択肢の提示:統制感を奪わない
3. 教育計画(EP)では
- 科学的根拠を示しつつ、脅さない
- 「完璧」より「継続」の価値を伝える
- 家族教育も必ず含める
4. 評価では
- 行動変化だけでなく、発言・表情の変化も評価
- 「自分でできた」という感覚が育っているかを重視
まとめ
自己効力感を高める看護ケアの本質は、
「できない」を責めるのではなく、
「できた」を一緒に見つけ、
その意味を患者と共有すること
です。
看護師の言葉一つ、関わり方一つが、患者の「自分にもできるかもしれない」という感覚を育てます。
健康な方、ご高齢の方、闘病中の方、どの立場の読者さんにも、病気や体調への漠然とした不安が、少しでも具体的な道筋として見えるようになれば幸いです。
最後まで読んで下さいまして、ありがとうございます。



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