「自信が持てない」「挑戦する前にあきらめてしまう」。
そんな時に大きく関わっているのが、自己効力感(セルフ・エフィカシー)です。
自己肯定感が“自分の価値を認める力”だとすれば、
自己効力感は “できるかもしれない”と思える力。
特に近年、子育て・ビジネス・医療(リハビリ)の現場で注目されており、
“身近なお手本”があるだけで人の行動は大きく変わることがわかっています。
この記事では、
「なぜ身近なお手本が自己効力感を育てるのか」
「具体的にどう活用すればよいのか」
をわかりやすく解説します。
自己効力感とは?——「できるかもしれない」が行動を生む力
自己肯定感との違い
- 自己肯定感=自分の価値を認める気持ち
- 自己効力感=行動するときの“できる感覚”
行動の前に必要なのは、ほぼ必ずこの自己効力感です。
行動の“入り口”としての自己効力感
「やればできる気がする」「ちょっと試してみたい」
そんな感覚が、行動のスタートラインになります。
なぜ「近いお手本」が自己効力感を育てるのか
心理学が示す“似た他者効果”とは
自己肯定感と並んで注目される概念に、自己効力感(セルフ・エフィカシー)があります。
これは「自分ならできる」「挑戦しても大丈夫」という“行動に向かう力”のこと。
人は、自分と近い条件の人が成功するのを見ることで、
「自分にもできるかも」という感覚を得ます。
研究では、自己効力感を育てるうえで最も強く作用するのが、
身近なモデル(お手本)を持つことだと示されています。
カナダ人心理学者バンデューラスタンフォード大学教授(Albert Bandura, 1925-2021)の恐怖症克服の研究によれば、私たちは自分と似た立場の人が成功している姿を見ると、
「自分にもできるかもしれない」
という現実的な希望を感じます。
他者の成功を見て「自分にもできるかもしれない」と感じる“代理経験”です。
これが自己効力感を押し上げる最も強い要因です。
遠い憧れが自信を奪う理由
天才、偉人、インフルエンサーは刺激になる一方、
「その人は例外だから」と距離を感じやすく、
再現可能性が低いため、自信につながりづらい。
遠くの理想は刺激にはなるものの、
“自分には無理”に転じやすいという弱点があります。
“成功のプロセス”が見えることの重要性
そのため、自己効力感を育てるうえでは
「ちょっと頑張れば届きそうな人」の存在が決定的に重要になります。
努力 → 失敗 → 工夫 → 成功
この流れが見えると、「再現できそう」という実感が生まれます。
身近なモデルが与える“再現可能な希望”の力
小さな成功が大きな行動につながる
- 先輩の上達
- 同級生の成績向上
- 同僚のスキル習得
- 回復者のリハビリ成果
すべてが「自分にもできるかも」という小さな希望になります。
特にポイントとなるのは、
成功の瞬間だけでなく、努力のプロセスが見えること。
「この人も最初はできなかった」という情報ほど、自己効力感を押し上げます。
比較で落ち込みやすい人が注意すべき点
注意したいのは、
身近な人の成功を見て落ち込むケースもあるということです。
ただし、その原因は「自分の失敗」ではなく、
- 目標が高すぎる
- 結果だけを見る
- 努力プロセスが見えていない
といった状況にあります。
この3つを避ければ、他者の成功は“落ち込みの材料”ではなく“希望の材料”になります。
モデルを見るときは、成功の“瞬間”だけでなく、
その人が積んできたプロセス、工夫、失敗の乗り越え方を見ることが大切です。
成功した人の努力の「裏側」を知るほど、自己効力感は育ちやすくなります。
教育でもビジネスでも医療でも、
「自分と似た人ができた」という事実は、最強の“できる感覚”の源泉です。
だからこそ、自己効力感を育てたい場面では、無理に遠い理想像を追うよりも、“手が届きそうな、ちょっと先行く誰か”を見つけることが、実は最短ルートになります。
身近なロールモデルの存在は「できるかもしれない」という感覚を強く支えます。
身近なモデルの具体例
自分に近い人(先輩、同級生、同僚、身近な大人)が努力して成果を出す姿を見ると、
「自分にもできるかも」
「この人ができたなら、自分も挑戦できそう」
という“再現可能な希望”が生まれます。
これが、自己効力感を育てる大きな力になります。
また、身近な成功例は行動レベルが具体的です。
どんな工夫をして、どの順番で取り組み、どんな失敗を経たのか。
そのプロセスが見えるため、まねしやすく、成功体験にもつながりやすくなります。
子どもの自己効力感を育てる——教育での実践
同級生・上級生という最強のモデル
子どもの場合、遠い憧れの存在よりも、
“少し先を行く人”を真似して伸びていきます。
- 字が少し上手な友達
- 図工が得意な上級生
- 練習してできるようになった先生のエピソード
こうした身近な成功例は、子どもにとって“現実的に手が届く未来”です。
「自分もやってみよう」という動機になります。
結果よりも努力の物語を伝える
育てるときのポイントは
- 身近に小さな成功モデルを置く
- 成果ではなく過程を伝える
- 努力の物語を共有する
「○○さんも最初は苦手だったんだよ」
という物語を伝えるだけで挑戦意欲が高まります。
子どもが「できるかも」と感じる声かけ例
- 「ここまでできたね」
- 「前より上達してるよ」
- 「少し練習したらすぐできそうだね」
仕事の場面で自己効力感を高める方法
同僚・先輩の成功を“自分ごと化”するコツ
社会人でも同じです。
「環境が似ている人の成功」は最も強力な動機づけになります。
- 同僚が営業成績を伸ばした
- 少し若い社員が資格を取った
- 同じ業務の人が効率化を達成した
こうした“自分と近い成功例”は、
「やってみれば自分にも再現できる」という感覚を生みます。
成功のプロセス共有がチームを強くする
職場で自己効力感を高めるには、
- 成功プロセスの共有
- 工夫・失敗・改善点
- 共有メモ・勉強会など
といった仕組みが効果的です。
成功事例を「再現できる手順」として見える化すると、
チーム全体に自己効力感が移ります。
小さな目標設定と承認が生む効果
達成を“細かく”設定 → 達成のたびに承認
これが最も効率よく自己効力感を高めます。
「遠すぎる理想の上司」より、
「ちょっと頑張れば追いつけそうな同僚」の存在のほうが、人を変えます。
リハビリでの応用——希望は人から人へ移る
似た症状の人の回復が与える影響力
医療・介護の現場でも、自己効力感は回復を大きく左右します。
特に、自分と似た症状の人の前進は、強い励ましになります。
支える側が意識すべき「モデルの見せ方」
- 同じ訓練を頑張っている仲間を見られる
- 自分より少し先に回復した人の話を聞く
- 回復記録を共有する
こうした「自分と似た条件の人」が前に進む姿は、
「自分も一歩進めるはず」という現実的な希望を与えてくれます。
- “できるようになった瞬間”より
- “そこへ至る過程”を意識的に伝える
自己効力感が回復スピードを変える理由
「できるかもしれない」は、練習量・継続力・気力を底上げし、
結果的に回復の速度も変えます。
リハビリの現場でよく言われる
「希望は他者から移る」
という言葉は、まさに自己効力感の本質と言えます。
まとめ——人を動かすのは“少し先を歩く身近な誰か”
日常で自己効力感を育てる小さな工夫
- 小さな成功体験を積む
- 身近なモデルから学ぶ
- 努力のプロセスを意識する
自己効力感が育つのは、
「自分にもできそうだ」
と感じられた瞬間です。
その感覚をつくるのは、天才や偉人ではありません。
自分に似た、少し先を歩く身近な誰かです。
教育・仕事・リハビリに共通する本質
教育でも、仕事でも、リハビリでも、
人を前に進めるのは「現実味のある希望」です。
「遠い理想より、少し先を歩く現実」
これこそが人を動かす力です。
最後まで読んでくださいまして、ありがとうございます。
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