(炎上シリーズ 第2回/全3回)
批判はいつ、攻撃に変わるのか
SNSの炎上では、発言への批判がいつの間にか、発言者の人格への攻撃に変わっていくことがあります。
前回の記事では、松木太郎氏による2018年の研究を整理しました。
この研究では、大学生・大学院生への質問紙調査から、言語的攻撃行動については、マインドフルネスが高い人ほど、対人ストレスが攻撃を促す影響が弱まる傾向が示されました。
一方、身体的・物理的攻撃行動では、同様の効果は確認されていません。
今回は、この知見を手がかりに、SNSの炎上を考えます。
ただし、論文が扱ったのは日常の対人関係における攻撃行動であり、SNSの炎上は調べていません。
本記事の内容は、論文が直接検証した結果ではなく、研究をSNSの状況に応用した考察です。
なぜ言葉による攻撃に注目するのか
SNSの炎上を考えるうえで、今回の研究から特に注目したいのは言語的攻撃行動です。
SNSでは、身体的な接触を伴わなくても、言葉によって相手を傷つけることができます。
嫌み、侮辱、人格への決めつけ、嘲笑などは、意見の違いを伝えるために必ずしも必要なものではありません。
論文では、先行研究(大竹, 2002)を引いて、言語的攻撃行動はストレッサーによって不快な感情が高まると生じやすいとされています。
炎上の場面で怒りや不快感が言葉の攻撃に変わりやすいことを考えるとき、示唆を与える内容です。
批判と人格攻撃の違い
ある発言に問題があると感じた場合、次のような違いがあります。
問題点を批判する場合
「この発言には、こうした問題があると思います。理由は……」
相手を攻撃する場合
「こんなことを言う人間は、どうしようもない」
前者は発言の内容や根拠を検討しています。
後者は、発言者そのものを貶める方向に進んでいます。
実際の投稿はこのように明確に二分できるわけではありませんが、両者を区別することは、炎上を考えるうえで大切です。
批判には、問題点を指摘し、改善を求める役割があります。
一方、人格攻撃は、問題の検討から離れて、相手を傷つけること自体に傾く場合があります。
怒りを感じたことだけを理由に、すべての批判を攻撃と見なすべきではありません。
同時に、正しい問題提起をしているつもりでも、侮辱や嫌みを重ねれば、議論は問題の検討から攻撃へとずれていく可能性があります。
炎上では、どのように攻撃が連鎖するのか
ここからは、論文の知見を手がかりに、SNSの炎上について考えてみます。
なお、論文が扱ったのは日常の対人関係における攻撃行動であり、SNSの炎上ではありません。
以下は論文が直接検証した結果ではなく、その研究をSNSの状況に応用した考察です。
炎上の過程を、次の4つの段階に分けて考えてみます。
すべての炎上がこの順序で進むわけではなく、あくまで一つの見取り図です。
不快な発言や出来事に接する
まず、誰かの発言や行動を見て、不快感や怒りを覚えます。
その反応には、実際に問題のある発言への批判もあれば、価値観の違い、誤解、個人的な経験に由来するものもあります。
感情が生じる理由は一つではありません。
怒りが言葉に変わる
不快感を覚えた人が、その感情をコメントや投稿として表現します。
この段階では、問題点を指摘する批判になることもあれば、嫌みや侮辱を含む攻撃的な表現になることもあります。
重要なのは、怒りを感じたこと自体ではなく、それをどのような言葉や行動に変えるかという点です。
攻撃的な言葉が新たな反応を生む
攻撃的なコメントを受けた人は、不快感や怒りを覚え、反論したり、相手を攻撃し返したりする可能性があります。
これは、論文が扱った「対人ストレスが言語的攻撃を促す」という関係が、やり取りの中で繰り返される状況とも言えます。
その反応を見た第三者が新たに参加すると、やり取りは当初の問題から離れていくことがあります。
こうして、最初の発言への批判が、批判する人同士の対立や、発言者の人格をめぐる攻撃へと変化していく場合があります。
本来の問題が見えにくくなる
攻撃的な応酬が続くと、何が問題だったのかよりも、誰がどんな言葉を使ったのか、誰が勝ったのかという点に注目が集まりやすくなります。
その結果、当初の問題について冷静に検討することが難しくなる場合があります。
ただし、すべての炎上がこの順序で進むわけではありません。
集団の動きや情報の広がり方など、ほかの要因も関係します。
連鎖を考えるうえでの注意点
この見取り図には、注意が必要です。
- 今回の論文が確認したのは、個人の中での「対人ストレスと言語的攻撃の関係」であり、人から人へ攻撃が広がる過程ではない
- 論文の調査対象は大学生・大学院生で、SNS上のやり取りではない
- 調査時点での関連を見た研究のため、因果関係は示せない
つまり、論文が示唆するのは、「対人ストレスを経験したときの反応には個人差があり、特に言葉による攻撃との関係に注目する余地がある」というところまでです。
まとめ|批判と攻撃を分けて考える
炎上は、単に怒っている人が集まることで起こるとは限りません。
問題のある発言への批判が、人格への非難へと移り、その反応が新たな反撃を生むことで、攻撃の連鎖が生まれる場合があります。
怒りを感じることと、相手を攻撃することは同じではありません。
批判することと、人格を傷つけることも同じではありません。
では、怒りを感じたとき、私たちはどのように反応を選べるのでしょうか。
第3回では、マインドフルネスの考え方をSNSでの言葉の選び方に応用し、この考え方の限界も含めて考えます。
参考文献
松木太郎(2018)「攻撃行動と対人ストレッサーの関連におけるマインドフルネスの調整効果の検討」『パーソナリティ研究』26巻3号、291–293頁。
DOI:https://doi.org/10.2132/personality.26.3.3
※本記事は上記論文の研究内容をもとに、SNSの炎上への応用を考察したものです。
論文の調査対象はSNSの炎上ではなく、研究結果を炎上の直接的な原因や予防効果の証明として扱うものではありません。
炎上シリーズ 全3回
- 第1回:[対人ストレスが攻撃的な言葉を生むとき|マインドフルネスの調整効果を読み解く]
- 第2回:批判と人格攻撃は何が違う?炎上で攻撃が連鎖する過程を心理学から考える(この記事)
- 第3回:[炎上の前に立ち止まる|怒りを消さず、反応を選ぶという考え方](調整中)
論文の内容を詳しく確認したい方は、第1回をご覧ください。
最終回では、怒りを感じたときの反応の選び方と、この考え方の限界を整理します。
◀ [第1回を読む]
▶ [第3回を読む](調整中)
最後まで読んでくださいまして、ありがとうございます。

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