認知的不協和Ⅵ|おかしいと気づいているのに、なぜ動けないのか

認知的不協和Ⅵ|おかしいと気づいているのに、なぜ動けないのか 心の仕組み
エッシャー風の無限階段
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歪む正義の心理学|トリビアシリーズ 全6回 ―Ⅵ
認知的不協和

「おかしいとわかっている。でも、動けない。」

これは意志が弱いのではありません。
認知的不協和(Cognitive Dissonance)という、脳の自然なメカニズムが働いているからです。

認知的不協和とは

心理学者レオン・フェスティンガーが1957年に提唱したこの概念は、矛盾する二つの認知が同時に存在するとき、人が感じる不快感とその解消プロセスを説明します。

認知的不協和とは、心理学(とくに社会心理学)における概念です。
自分の中で「信念・態度・行動」などが互いに矛盾したときに生じる、不快感や心理的ストレスが生じる現象を指します。

「人は自分の中の矛盾をそのままにしておけない」という心の働きがあります。
そのため、無意識のうちに考えや解釈を調整し、一貫性を保とうとします。

 ポイント

  • 用語:Cognitive Dissonance(認知的不協和)
  • 意味:矛盾する認知(考え・信念・行動)を同時に抱えることで生じる「居心地の悪さ」

知る

矛盾が生む不快感——具体例

日常のなかに、認知的不協和はひそんでいます。

「おかしいとわかっている。でも、動けない。」

これは意志が弱いのではありません。
認知的不協和(Cognitive Dissonance)という、脳の自然なメカニズムが働いているからです。

心理学者レオン・フェスティンガーが提唱したこの概念は、矛盾する二つの認知が同時に存在するとき、人が感じる不快感とその解消プロセスを説明します。

主な特徴

不快感の発生

信念や価値観と、それに反する行動・事実が同時に存在すると、心理的な違和感(不協和)が生まれる。

日常のなかに、認知的不協和はひそんでいます。

  • 職場
    「この会社はおかしい」+「でも自分はここで働き続けている」
  • 上下関係
    「あの上司の言っていることは間違っている」+「でも自分は従っている」
  • 人間関係
    「この関係は自分を傷つけている」+「でも自分は関係を続けている」
  • 健康行動
    「タバコは体に悪い」と知っているのに吸ってしまう
    →「ストレス解消になるから問題ない」と正当化する

脳が選ぶ「辻褄合わせ」の3パターン

解消への動き

この矛盾が生む不快感を解消するために、脳は「辻褄合わせ」を始めます。
不快感を解消するために、脳は次のいずれかの調整を行います。

信念を変える
「おかしい」という感覚を書き換え、矛盾を消す。

行動を変える
矛盾を生む行動をやめ、信念に一致させる(最も根本的な解消)。

合理化を加える
 都合のよい解釈で不協和を薄める。
イソップ寓話『すっぱい葡萄』がこの典型——手に入らない葡萄を「どうせ酸っぱい」と思い込むことで不満を和らげる。

注意
多くの場合、脳が選ぶのは「行動を変える」ではなく信念を変えるか合理化の、「認知を変える」です。
こうして「おかしい」という正確な認知の方が、静かに消えていきます。

気づく

認知的不協和の解消が始まっているサインは、こんな思考パターンに現れます。

解消が始まっているサインに気づく

次のような思考パターンが現れたら、要注意です。

  • 以前は「おかしい」と感じていたことを、感じなくなった
  • 「慣れた」という感覚が、「諦め」と区別できなくなった
  • 自分の感覚より、周囲の評価を信じるようになった
  • 過去の自分の判断を「未熟だった」と思い始めた

特に最後は注意が必要です。
成長による認識の変化と、不協和解消による認知の書き換えは、外から見ると区別がつきにくい。

感覚の方を書き換えてしまう。

「この会社もそんなに悪くないかもしれない」
「上司にも理由があるのかもしれない」
「自分が敏感すぎるのかもしれない」

こうして、「おかしい」という正確な認知が消えていきます。

防御する

自分を守る方法

認知的不協和から自分を守る最も有効な方法は、「過去の自分の感覚を記録しておくこと」です。

日記でも、メモでも構いません。
「今日、おかしいと思った」という記録を残す。

時間が経ってから見返したとき、「あのとき感じたことは正しかった」と確認できます。
これが、認知の書き換えへの抵抗力になります。

また、認知的不協和は「行動を変える」ことで最も根本的に解消できます。

認知を変えることではない。

矛盾を感じているなら、その矛盾を生む行動の方を変える——それが、脳にとっても正直な解消です。

シリーズを終えて

6つの概念を読み終えたあなたは、少し前とは違う目を持っています。

「おかしい」と感じた自分の感覚に、名前がついた。
その感覚は、正しかった。

「知っている」は、防御になります。
概念を知ることで、「あ、これはあの構造だ」と気づける。
気づけると、飲み込まれにくくなる。

これが「知っておくことが脳の構造を変える」ということです。

 

最後まで読んでくださいまして、ありがとうございます。

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シリーズ一覧
道徳的免責|なぜ加害者は自分を悪いと思わないのか
公式的正義|「全体のため」はなぜ個人を黙らせるのか
制度的暴力|悪者がいないのに、なぜ人は傷つくのか
集団思考|「みんなそう言ってる」が判断を狂わせる
正常性バイアス|「まさかうちに限って」が危険な理由
⑥ 認知的不協和|おかしいと気づいていても、動けない理由
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