(炎上シリーズ 第3回/全3回)
怒りを感じたとき、何ができるのか
SNSで批判的なコメントを読んで腹が立ったとき、すぐに言い返したくなることがあります。
このシリーズでは、松木太郎氏による2018年の研究を手がかりに、炎上について考えてきました。
この研究では、大学生・大学院生への質問紙調査から、言語的攻撃行動については、マインドフルネスが高い人ほど、対人ストレスが攻撃を促す影響が弱まる傾向が示されています。
最終回となる今回は、この知見をもとに、怒りを感じたときの向き合い方を考えます。
あわせて、この考え方だけでは説明できない炎上の問題についても解説します。
なお、論文が扱ったのは日常の対人関係であり、SNSの炎上ではありません。
以下は研究をSNSの状況に応用した考察です。
怒りを消すのではなく、反応を選ぶ
攻撃の連鎖を避けるために、私たちにできることは何でしょうか。
ひとつの手がかりになるのが、自分の感情や反応に気づくことです。
論文では、マインドフルネスな状態にあると、生じた感情を客観的に認識し、そこから距離を置けるとされています。
たとえば、批判的なコメントを読んで腹が立ったとき、すぐに返信するのではなく、次のような問いを挟んでみます。
- 自分はいま、何に怒っているのだろうか。
- 相手の発言のどこに問題を感じたのだろうか。
- その問題を指摘するために、人格への攻撃は必要だろうか。
- いま返信することは、問題の解決につながるだろうか。
これらは論文で効果が実証された具体的な介入方法ではありません。
マインドフルネスの考え方を、SNSでのコミュニケーションに応用した実践的な問いです。
怒りを抑え込むことが目的ではない
怒りを抑え込むことが、いつも望ましいわけではありません。
不当な扱いや問題のある行為に対して、異議を申し立てることは必要です。
大切なのは、怒りを感じないようにすることではなく、怒りを感じたときに、その感情をどのような行動へつなげるかを考えることです。
- 批判すべき問題があるなら、その問題を具体的に指摘する
- 相手の説明に疑問があるなら、根拠を尋ねる
- やり取りが侮辱の応酬になっているなら、そこで距離を置く
反応を選ぶことは、相手の言動を許すことでも、問題を見過ごすことでもありません。
この考え方の限界
ここで、注意しておきたいことがあります。
研究そのものの限界
- 対象は大学生・大学院生で、女性が約8割を占める
- 質問紙による自己報告で、調査時点での関連を見た研究である
- マインドフルネスを高めれば攻撃が減る、という実験的な証明ではない
- 身体的・物理的攻撃では、調整効果は確認されていない
- この研究はハラスメントを扱っていない: 質問項目の例は「家族、友人、恋人などに、自分の欠点を指摘された」といった日常の対人関係です。
深刻な被害の場面に、この結果を当てはめることはできません。
炎上の説明としての限界
炎上は、個人の感情や自制心だけで説明できる現象ではありません。
SNSでは、短い文章だけで発言の意図を判断しなければならないことがあります。
文脈が伝わらなかったり、情報の一部だけが広がったりすることもあります。
また、批判する人が増えることで、個々の発言が集まり、ひとつの大きな攻撃のように見える場合もあります。
こうした現象を理解するには、情報の伝わり方、集団心理、プラットフォームの仕組みなど、複数の視点が必要です。
今回の論文は、そうした炎上の全体像を解明したものではありません。
この知見は、炎上のすべてを説明する理論としてではなく、攻撃が生まれる心理的な過程を考えるための一つの手がかりとして用いることが大切です。
ハラスメントのような場面では
セクハラやアカハラのように、立場の差を背景にした不当な扱いを受けたとき、何ごともなかったように振る舞い続けることは、マインドフルネスの考え方とは異なります。
マインドフルネスは、怒りや苦痛を感じないことにすることでも、我慢して笑顔で受け流すことでもありません。
怒りや苦痛が生じていることに気づく、という姿勢です。
また、論文で扱われた言語的攻撃行動は、嫌みを言うといった行動です。
被害を相談する、記録を残す、窓口や第三者に申し立てるといった行動は、攻撃行動とは別のものです。
なお、この研究はハラスメントの被害を扱ったものではありません。
結果を、そうした場面にそのまま当てはめることはできません。
まとめ|批判の先に、攻撃を選ばない余地はある
松木(2018)の研究では、対人ストレスと言語的攻撃行動との関係において、マインドフルネスによる調整効果が示されました。
一方、身体的・物理的攻撃行動では同様の効果は確認されていません。
この研究だけで、SNSの炎上を防ぐ方法を断定することはできません。
それでも、対人ストレスを経験したときの反応に目を向けることは、炎上を考えるうえで意味があります。
問題を指摘する必要があるときこそ、何を批判しているのか、どのような言葉を使うのかを考える余地があります。
怒りを感じること自体は、自分では選べない場合があります。
しかし、その怒りをどのような言葉や行動に変えるかについては、立ち止まって考えられる場面があります。
炎上の連鎖を考えることは、批判をなくすためではありません。
必要な批判と攻撃を区別し、問題を解決するための言葉が、誰かを傷つけること自体を目的とした言葉へ変わっていないかを見つめ直すためです。
参考文献
松木太郎(2018)「攻撃行動と対人ストレッサーの関連におけるマインドフルネスの調整効果の検討」『パーソナリティ研究』26巻3号、291–293頁。
DOI:https://doi.org/10.2132/personality.26.3.3
※本記事は上記論文の研究内容をもとに、SNSの炎上への応用を考察したものです。
論文の調査対象はSNSの炎上ではなく、研究結果を炎上の直接的な原因や予防効果の証明として扱うものではありません。
炎上シリーズ 全3回
– 第1回:[対人ストレスが攻撃的な言葉を生むとき|マインドフルネスの調整効果を読み解く]
– 第2回:[批判と人格攻撃は何が違う?炎上で攻撃が連鎖する過程を心理学から考える]
– 第3回:炎上の前に立ち止まる|怒りを消さず、反応を選ぶという考え方(この記事)
論文の内容は第1回、批判と攻撃の違いや連鎖の過程は第2回で解説しています。
あわせてお読みください。
◀ [第2回を読む]
▶ [第1回から読み直す]
▶ シリーズ一覧を見る(準備中)
最後まで読んでくださいまして、ありがとうございます。




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